ホテル清掃日誌

清掃会社の人間が日々思ったことを書いています

「変なホテル」の嘘

 今更ですが、「変なホテル」の話です。ハウステンボスに続いて舞浜にもオープンしたそうで、テレビで何度も取り上げられていたのでご存知の方も多いかと思います。

 テレビでは「従業員のほとんどがロボットで人間の従業員は7名だけ」と宣伝されていましたが、ホテル業界に関わっている人はみんな思ったはずです。「そんなはずはない!」と。どう考えても、この7名というのはフロントやベルなどの「表の接客業務」を行う人の数であって、清掃やキッチン、スチュワード、施設管理などの「裏方の人間」が全く含まれていません。

 まず、客室清掃は全て人間がやっているはずですが、客室が100室あり、一番狭い部屋で18.5㎡、広い部屋だと26㎡あり、トリプルの部屋もあるようですので、ざっと計算しても満室の場合は1日10~12人の清掃スタッフが必要だと思われます。メイドによるセルフインスペクション方式ではなくて、いわゆるインスペクターが部屋のチェックをする方式なら、さらにインスペクターが2~3名は必要です。よって、1日15人程度の出勤人数を確保しようと思うと、在籍者は最低でも25名は必要です。

 また、ロビーなどのパブリックスペースの床はルンバが掃除するそうですが、それ以外の所は人間が清掃しているようです。6階建てで100室のホテルなら最低1~2名のパブリックスペースの清掃要員が必要です。

 さらに、ホテルにはレストランが併設されておりそこで朝食が提供されているようですが、レストランの業務でせいぜい自動化できるのは皿洗いぐらいで、調理から配膳、片付け等の業務は全て人間がやっているはずです。ホテルのサイトで写真を見たらブッフェ台に料理がきれいに盛り付けてありましたが、いくら何でもあれをロボットがやるとは思えません。1人が複数の業務を兼務して少人数でやるとはいえ何人かは必要なはずです。レストラン業務は私の専門外なので正確にはわかりませんが、朝食を提供するには少なくとも1日3~4名のスタッフが必要なのではないでしょうか。

 あと、ホテルには施設管理という業務があります。ホテル内の様々な設備関係のトラブルに対応するためのスタッフで、基本的に24時間常駐しています。小さいホテルだと常駐者がおらず、トラブルが発生する毎に委託業者に連絡をして来てもらうということもありますが、最低1名は常駐者を置いているところが多いと思います。

 ということで、清掃・レストラン・施設管理等、少なめに見積もっても35名以上の裏方のスタッフが在籍しているはずです。しかし、ホテル側は接客を担当する表のスタッフが7名ということだけを強調して、ホテルを裏で支えている裏方のスタッフを「従業員」に含めないで虚偽の宣伝を行っており、マスコミもそれを何の疑いもなく報じているわけです。

 この他にも通常のホテルですと、予約係や総務、経理、購買等の業務をやる人もいます。これは恐らくホテル内には置かずに、別の場所でやっているのでしょうが、こういった事務方なしにしてもホテルは営業できません。そこを完全に無視しているのも私は納得がいきません。

 とりあえず、このニュースを見た時に私が思ったのは、「我々、清掃会社のスタッフは従業員ではないのか?」ということです。残念ながら清掃業者はホテル内のヒエラルキーで最下位に位置しており、ホテルの経営陣のみならず、一般のフロントやベルのスタッフ等からも常々見下されています(全員がそういうわけではありませんが)。私も長年この仕事をやっていますが、何度も悔しい思いをしたことがあります。

 皆さん最も大事なことを理解されてないのですが、ホテルは宿泊施設であり、お客さんはロビーやレストランなどよりも、客室で過ごす時間が一番長いんですよね。その客室がきれいに清掃できていなかったら、いくらフロントやレストランが立派でもホテルの印象は最悪になってしまうわけです。客室の印象でホテルの印象決まると言っても過言ではない、我々はそれくらい大事な業務を担っているのです。でも、偉い人にはそれがわからないのです。だから堂々と「従業員は7名だけ」なんてことが言えるんですよね。

GWと修学旅行

 まただいぶ間が空いてしまいましたが、月末の事務処理の終われ、それが終わったと思えばGWに突入し、色々と忙しくしておりました。

 さて、去年に比べて祝日の並びが良かった今年のGWですが、蓋を開けてみれば稼働は例年とさほど変わりませんでしたね。ホテルによって多少は違いましたが、平日の5/1,2はあまり稼働は伸びず、5/3,4がピークで、5/5で若干稼働が落ち、5/6は全然ダメという感じでした。いくら並びが良くても長い休みを取れる人は限られる、という日本社会の現状がよくわかった気がします。

 例年ですとこの時期はメイドのやり繰りに苦労するのですが、今年は幸いなことに私の管轄エリアのホテルでは5/4~5/6に行われたあるイベントのお陰でステイ(連泊)が多く、メイドが足りなくても何とか乗り切ることができました。ステイが多くなければもう終わりというぐらい人手不足な現場もあるので、これは本当にラッキーでした。ただ、次の山場であるお盆休みはこうはいかないことは重々承知しております。それまでには人手を確保しなければいけないのですが、募集コストをかけても人は集まらずもうどうしようもないのが現状です。

 とりあえず、今週は笑ってしまうぐらい稼働が低くて一息つけるのですが、ホテルによってはこれから修学旅行が増えてくるので、また忙しくなってきます。修学旅行と言えば旅館の大部屋で枕投げというのが定番だった私の年代の人間には信じられないのですが、今の子供達は修学旅行でシティホテルに泊まるんです。それも小学生が1泊2万円以上するような外資系シティホテルに。私なんてプライベートでも滅多にそんな高いホテルに泊まらないんですけどねぇ。世の中変わったものです。

 ちなみに、修学旅行を受け入れるとホテル側にとってどういうメリットがあるのかというと、基本的に修学旅行の生徒は3名1室です。私の知る限り、朝食付きで1人8~9千円程度が相場ですので、1部屋で2万5千円前後の売上になります。1泊2万円以上が相場のホテルでも、閑散期の平日には1万円台で部屋を販売することもありますので、その閑散期の平日に大人数で宿泊して、しかもほとんどの部屋がトリプルで2万5千円前後で販売できるというのはホテル側にとっては大きなメリットです。

 また、修学旅行というのは通常、地元の旅行会社を通じて企画されますので、ホテルの営業担当者がその地域の旅行会社に営業をかけ契約を取れれば、その旅行代理店を利用している同じ地域の学校が何校も続けて来るということになります。営業担当としてはこんなお手軽なことはありません。しかも、行き先が変更にならない限り修学旅行は毎年来るので、非常に安定した収入が見込めます。こんな美味しい話はないですよね。

 もちろんきらびやかな高級ホテルのロビーに制服姿の小中学生が集まって騒いでいる光景は一般のゲストから見たらあまりいい光景ではないので、ホテルにとっては間違いなくイメージダウンになりますし、それが顧客離れに繋がる可能性もあります。それを承知の上で修学旅行を受け入れるというのは、上記で書いたような金銭面のメリットが大きいのが理由です。どこも背に腹は代えられないというのが現状のようです。

 現場で働く者としては修学旅行に頼るようになったらシティホテルとしては終わりだと思うのですが、それでも泊まりに来る以上は快適に過ごしてもらって、ホテルっていいなぁと思ってもらえるように日々お仕事をしております。

メイドの給与体系

 しばらく忙しくしていたので更新が滞りました。

 さて、今回はホテル清掃の客室清掃スタッフ(メイド)の賃金形態について書いてみたいと思います。この業界のメイドの賃金形態は大きく分けて2種類あります。

 ①時給制

 ②歩合制

 まず①の時給制ですが、これは一般のアルバイト・パートと同様で、例えば時給1,000円なら「勤務時間×1,000円=給与」となる形です。働いた時間分だけ給料がもらえるので非常にわかりやすいと思います。

 ただ、ここで注意が必要になってくるのですが、求人広告では「時給○○円」と謳っていてもそれを額面通り受け止めてはいけないということです。というのは、会社や現場によっては一人が一日に清掃する部屋数が「ノルマ」として設定されており、決められた時間までにその「ノルマ」をこなすことができないとそれ以降はタダ働きをさせられるということもあります。もちろんこれは明らかな労働基準法違反ですが、サラリーマンのサービス残業と同じくこの業界ではこのような違反が横行しています。

 私の会社では「ノルマ」の設定はやっていませんが、これをやる清掃会社の気持ちも分からないでもないです。ホテルからもらう清掃単価は1部屋清掃していくらという計算なので、メイドの給与が時給制の場合は1部屋の清掃に時間がかかればかかるほど会社の利益は少なくなり、下手すると部屋を多く清掃すればするほど赤字になるということにもなります。そうなるとメイドには少しでも早く清掃をしてもらわなければなりませんので、「ノルマ」を設定し、赤字にならないようにするために設定した時間内で終わらなければサービス残業をさせるというやり方になっているのでしょう。

 次に②の歩合制ですが、部屋の広さや設備などによって1部屋清掃するごとにメイドがもらえる金額が決められていて、1日に清掃した部屋数×その金額で給料を計算する方式です。このやり方ならば上記の時給制のようにメイドの清掃が遅くても部屋単位で考えた場合は赤字になりません(その他の経費があるので全体では赤字になることもあります)。

 数をこなせばその分だけ給料が多くなるので、出稼ぎ目的の外国人メイドなどにはこのシステムが好まれますが、清掃の遅い人は歩合制だと給料が少なくなってしまい、場合によっては時給で計算した場合の最低賃金に満たない場合もあります。それを防ぐために「ノルマ数までは時給でそれ以上の数を清掃すると歩合」とか、「1日の最低保証額が決まっている」といった形にしているところが多いです。ただ、この方式でも最低保証額は実働時間に関係なく一定時間分の最低賃金で設定されており、ノルマを終わらせるのにそれ以上時間がかっても給与は変わらず時給計算では最低賃金未満の給料しかもらえないというところもあります。これも完全に違法ですが、残念ながら当たり前のように存在しています。

 ちなみに、上記のような労基法上の問題を堂々と無視するために、メイドを個人事業主として扱い、個々のメイドと業務請負契約を結ぶという形にしているところもあると聞いたことがありますが、会社の指揮下で業務を行うことになるので偽装請負に当たり、これも違法です。

 他にも労基法入管法などに違反したことをやっている清掃業者は多数ありますが、ほとんどのホテルの方はこういう違法な状態が横行していることに関しては基本的に見て見ぬふりをします。世の中そんなものです。

 清掃業界に関係のない方には縁のない話かもしれませんが、きれいなホテルの部屋に安く泊まれて快適に過ごせるということは、こういうブラック企業で働く人達の犠牲の上に成り立っているということを知っておいていただけたらと思います。

 もちろんちゃんと関連法規を遵守して真面目にやっている会社もありますが、私の経験上はそんなホワイトな会社は一握りだけです。

 

契約更改と人手不足

 プロ野球の契約の契約更改はとっくに終わっていますが、ホテル業界の契約更改は今が旬です。日本の商習慣に従って多くのホテルでは毎年4月が清掃業務の委託契約の更新時期に当たります。ホテルによっては3年間や5年間という長期契約のところもありますが、近年は1年ごとの更新が多くなりました。更新は基本的には自動更新なのですが、更新に合わせて契約内容の見直しや、委託業者の変更が行われることもあります。

 契約内容の見直しとしては主に業務内容の変更や清掃単価(1部屋清掃したらもらう金額)の変更があります。業務内容の変更というのはほとんどの場合は清掃業者が行う業務の範囲が増えることで、これまではホテル側でやっていた業務の一部を清掃業者にやらせてホテルが楽をするということです。業務が増えた分だけ追加料金をもらえるところもありますが、お値段据え置きのまま仕事だけが増えるということもあります。

 

 一方、清掃単価はリーマンショック以降は下落が続きましたが、ここ数年はホテル業界の業績回復と人手不足と賃金の上昇もあって、清掃単価は回復傾向にあります。ただ、それでも社会情勢の変化に追いついていないのが現状です。ここ5年で東京の最低賃金は95円上がっているにも関わらず、清掃単価の上昇が追いついておらず、メイドに支給する給与の引き上げも進んでいません。

 人手不足がピークだった去年は首都圏ではメイドの求人で時給1000円~1100円というのもよく見かけましたが、清掃単価があまり上がっていないのにそんな時給で採用すると赤字になることは目に見えており、最近は時給950~1000円ぐらいに落ち着いてきた印象があります。

 もちろん、どの業界も人手不足なのに、この肉体的に超ハードで精神的にも神経を使うメイドの仕事が時給950~1000円では人が集まるはずはなく、その結果この業界は深刻な人手不足に陥っています。問題の深刻さを理解している一部のホテルは契約更新の時に清掃単価に引き上げに応じてくれていますし、本当にわかっているところは「今回清掃単価上げて良いですからね」とまで言ってくるところもありました。しかし、多くのホテルはなぜ人が集まらないのかを理解していないので問題の深刻さをわかっておらず、清掃単価は据え置き、もしくは小幅な引き上げに終わることが多いです。

 また、近年はホテルリートなどの投資法人がホテルの所有者になっているケースも増えており、そういうホテルはコスト重視の傾向がより一層顕著ですので、清掃単価の引き上げ交渉は容易ではありません。東京オリンピックを控え首都圏ではホテルの新規オープンや改装が相次いでおり、訪日客の増加によるホテル稼働率の上昇など景気のいい話しか聞こえてきませんが、清掃業界の人間は「そんなにホテルを増やしても清掃する人がいないのに何を考えているだんろうか」と冷ややかな目で見ているのが実情です。

 実際、全国展開するホテル清掃業界大手の某社が都内のホテル清掃の現場から完全に撤退するという噂を先日耳にしました。人手が足りず、人件費や募集経費にばかりコストのかかる都内の現場から撤退し、関西や名古屋など人手不足がそこまで深刻でない地域に注力するということです。賢明な経営判断だと思いますね。当社もここ数年は新しい現場の依頼があっても全て断るようにしていますし、この状態が進めば本当にホテル業界は崩壊すると思うのですが、現場を知らない偉い人にはそれがわからないんですよね。

 

アラブの王様

 最近サウジアラビア国王御一行の来日がニュースになっていました。随行員の方はうちの会社が清掃やっているホテルにも泊まっていましたが、下っ端の人たちだったようで業務自体にはあまり影響はありませんでした。ただ、多数の関係者が都内のホテルに分散して宿泊していたせいで、都内や横浜のホテル全体の稼働率が高かったような気がします。

 

 ちなみに、私は以前、某迎賓館の接遇業務に関わったことがあり、某アラブの国の王様の接遇を経験したことがあります。非常に我儘で気まぐれな人たちで、香水臭もきついので大変でしたが、さすがお金持ちだけあって気前も良かったです。

 

 滞在中に王様の側近がホテルの担当者を呼び、「君たち何人いるの?」と訊かれたのでその時いたスタッフの人数を答えたところ、「じゃこれみんなで分けてね」と言って1万円札を人数分ポンと出してくれたそうです。メイドの分もちゃんとあり、全員が1万円ずつもらいウハウハでした。

 

 というわけで、今回のサウジアラビアの王様御一行の来日のニュースを見ながら、チップを気前よくバラまいているだろうから担当している清掃会社の人が羨ましいなぁと思った次第です。