ホテル清掃日誌

清掃会社の人間が日々思ったことを書いています

契約更改と人手不足

 プロ野球の契約の契約更改はとっくに終わっていますが、ホテル業界の契約更改は今が旬です。日本の商習慣に従って多くのホテルでは毎年4月が清掃業務の委託契約の更新時期に当たります。ホテルによっては3年間や5年間という長期契約のところもありますが、近年は1年ごとの更新が多くなりました。更新は基本的には自動更新なのですが、更新に合わせて契約内容の見直しや、委託業者の変更が行われることもあります。

 契約内容の見直しとしては主に業務内容の変更や清掃単価(1部屋清掃したらもらう金額)の変更があります。業務内容の変更というのはほとんどの場合は清掃業者が行う業務の範囲が増えることで、これまではホテル側でやっていた業務の一部を清掃業者にやらせてホテルが楽をするということです。業務が増えた分だけ追加料金をもらえるところもありますが、お値段据え置きのまま仕事だけが増えるということもあります。

 

 一方、清掃単価はリーマンショック以降は下落が続きましたが、ここ数年はホテル業界の業績回復と人手不足と賃金の上昇もあって、清掃単価は回復傾向にあります。ただ、それでも社会情勢の変化に追いついていないのが現状です。ここ5年で東京の最低賃金は95円上がっているにも関わらず、清掃単価の上昇が追いついておらず、メイドに支給する給与の引き上げも進んでいません。

 人手不足がピークだった去年は首都圏ではメイドの求人で時給1000円~1100円というのもよく見かけましたが、清掃単価があまり上がっていないのにそんな時給で採用すると赤字になることは目に見えており、最近は時給950~1000円ぐらいに落ち着いてきた印象があります。

 もちろん、どの業界も人手不足なのに、この肉体的に超ハードで精神的にも神経を使うメイドの仕事が時給950~1000円では人が集まるはずはなく、その結果この業界は深刻な人手不足に陥っています。問題の深刻さを理解している一部のホテルは契約更新の時に清掃単価に引き上げに応じてくれていますし、本当にわかっているところは「今回清掃単価上げて良いですからね」とまで言ってくるところもありました。しかし、多くのホテルはなぜ人が集まらないのかを理解していないので問題の深刻さをわかっておらず、清掃単価は据え置き、もしくは小幅な引き上げに終わることが多いです。

 また、近年はホテルリートなどの投資法人がホテルの所有者になっているケースも増えており、そういうホテルはコスト重視の傾向がより一層顕著ですので、清掃単価の引き上げ交渉は容易ではありません。東京オリンピックを控え首都圏ではホテルの新規オープンや改装が相次いでおり、訪日客の増加によるホテル稼働率の上昇など景気のいい話しか聞こえてきませんが、清掃業界の人間は「そんなにホテルを増やしても清掃する人がいないのに何を考えているだんろうか」と冷ややかな目で見ているのが実情です。

 実際、全国展開するホテル清掃業界大手の某社が都内のホテル清掃の現場から完全に撤退するという噂を先日耳にしました。人手が足りず、人件費や募集経費にばかりコストのかかる都内の現場から撤退し、関西や名古屋など人手不足がそこまで深刻でない地域に注力するということです。賢明な経営判断だと思いますね。当社もここ数年は新しい現場の依頼があっても全て断るようにしていますし、この状態が進めば本当にホテル業界は崩壊すると思うのですが、現場を知らない偉い人にはそれがわからないんですよね。