ホテル清掃日誌

清掃会社の人間が日々思ったことを書いています

稼働率で悲喜こもごも

 昨日の続きで稼働率の話です。どのような業種の会社でも売上と利益ということが重視されますが、客室清掃という業種の売上はぶっちゃけて言うと全てホテルの稼働率次第です。基本的にホテルとの客室清掃業務の委託契約は「1部屋清掃すればいくら」という契約なので、必然的に稼働率が高ければ清掃数が増えるので売上が増えますし、稼働率が低ければ清掃数が減るので売上も減ります。通常の製造業やサービス業なら自社の努力で売上というものは伸ばせるものですが、この仕事は完全に他力本願ということになります。

 

 つまり、血の滲むような努力をして1部屋あたりの清掃コストを削減し、生産性を上げて利益率を改善したところで、稼働率が低く売上が少なければ利益も少なくなってしまいます。ここが清掃業者の悲しいところです。さらに、今年の1月や2月のように稼働率が極端に低いと、固定費(現場責任者の給与や消耗品などの経費)すらペイできなくなり、事業所単体だけでは赤字になってしまいます。清掃業務は委託契約とはなっていますが所詮は下請けなので、元請けが売上を伸ばしてくれないと我々の売上も伸びないということです。

 

 それでも一昔前の古き良き時代は清掃単価(ホテルからもらう1部屋あたりの清掃費)が割合高めに設定されていたので、多少稼働率が落ちてもある程度の利益は確保できるようになっていました。しかし、ここ10年ぐらいの間に業界の清掃単価は大幅に下がってしまい(近年は回復傾向にありますが、それでもまだ10年前の水準には程遠いです)、我々清掃業者はどう努力しても儲からないという状況になってしまいました。

 

 一応そのための保障として、ホテルによっては客室業務の委託契約の中に「最低稼働保障」 という項目があるところもあります。これは「月間の平均稼働率がある一定の数値より低かった場合は実際の清掃数に関わらず、最低保証の稼働率分の部屋数の清掃費を払います」という内容です。これがちゃんと設定されていれば、極端に稼働率が低い月があってもホテルが一定の売上は保障してくれるので大赤字になることはありません。

 

 しかし、その最低稼働保障が清掃業者の採算ラインより上に設定されていればいいですが、そもそも契約内容にこのような項目がないホテルもありますし、項目があっても契約を更新する際に保障される最低稼働率が引き下げられ、保障があってもないのと変わらないようなこともあります。要するに、「あんたのとこが損をしたってホテルは関係ないから知りません」ということです。ホテルあっての清掃業者、清掃業者あってのホテルなので、私の経験上、こういうホテルはロクなホテルじゃないことが多いです。

 

 なお、稼働率の変動によるリスクを軽減するために、客室清掃以外にもパブリックスペースの清掃(ロビーやレストラン、宴会場などの清掃)や施設管理、宴会サービスなどホテル内の稼働率の影響を受けない他の業務も受託していれば落ち込みを多少は補えるのですが、当社はいくつかのホテルでパブリックスペースの清掃業務をやっている以外は客室清掃がメインなので、稼働率の変動の影響をモロに受けてしまいます。この辺が当社の今後の課題だと思ってはいるのですが、本社の人たちにはこの認識がないようで、会社の行く末に一抹の不安を覚えています。

 

 もっとも、稼働率が高ければ高いでその場合はまた別の悩みがあるのですが、その話はまた別の機会に。

訪日ブームの終焉?

 昨日こんな記事を目にしました。

jbpress.ismedia.jp

 

 中国からのインバウンド(訪日客)の減少というニュースは最近よく目にしますが、世間の一般の方々にはあまり関係のない話なので恐らくは「ふーん」って感じでしょうし、中国嫌いな方々にはむしろ喜ぶべきニュースかもしれませんが、ホテル業界、特に清掃業者にとっては非常に深刻な問題です。

 

 というのは、一般的な都市部のシティホテルにとって本来1~2月というのは閑散期です。寒いせいか国内の観光客は少ないし、大規模な学会やイベントなども少ないので、稼働率が年間で最も低い時期に当たります。その時期に大挙してやって来る中国人客というのは非常にありがたい存在です(宿泊マナー等の問題はありますが)。

 

 ちなみに、春節シーズンのインバウンドというと中国本土からの訪日客ばかりがクローズアップされますが、同じ中華圏の台湾や香港、シンガポールなどからの団体も増えます。こちらは中国本土の客ほどマナーは悪くないのでまずまずの上客です。

 

 過去のデータを調べてみましたが、2014年までは春節前後に来るインバウンドの団体の数は少なく、私が関わっているホテルはどこも2月の月間稼働率は70%台で推移していました。しかし、2015年の春節前後にインバウンドの団体客が急増し、春節後も好稼働は続き、ホテルによっては2月の月間稼働率が90%近くまで上昇しました。これは一般的な業界の常識からすると2月としてはあり得ない数字です。例年通り閑散期で人手が少なくて済むと想定していたので、忙しすぎて人手の確保に苦労した記憶があります。結局、この勢いは年間を通して続き、そのまま2016年になだれ込んで、2016年も2月は平均すると85%以上の高稼働でした。

 

 中国からのインバウンドの勢いが明らかに鈍ったと感じたのは、去年の春頃からですかね。それまでは毎日のように当日到着予定の団体リストに中華系のインバウンドのエージェントの名前があったのですが、それが一気に減りました。たまに来る団体も以前のようにマナーの悪い人たち(ロビーで大声で騒ぐ、禁煙の部屋でタバコを吸う等)は減り、部屋から出るゴミも以前はラオックスの紙袋と大量の家電製品の空箱というのが多かったのですが、化粧品やお土産の袋などに変わりました。

 

 そのままの流れで今年に入り、今年は旧正月が1/28だったので例年より少し早かったのですが(旧暦なので日付は毎年変わります)、稼働率は一転して2014年以前の水準に戻ってしまいました。さすがに週末に重なった1/27と1/28は団体客と個人客でほぼ満室になりましたが、それ以降は中華系の個人客がチラホラ来る程度で、現在のところここ数年で最低の稼働状況となっています。

 

 おかげで、今年の1月は低稼働のため私の担当エリアの現場の一部は赤字でした。2月も稼働率が伸びないまま来ていますので、この様子では期待できそうにありません。春節の次にインバウンドが増えるのは桜の時期で、一昨年はこの頃も大量に団体が押し寄せたのですが、この様子では今年はダメでしょうね。半月ほど前の新聞記事で某老舗ホテルがインバウンドの比率を大幅に引き上げると言っているのを見ましたが、「今頃そんなことを言っているのかよ!」と思わず突っ込んだのは私だけではないはずです。このホテルのインバウンドは中国からの団体客がメインなのに、それをどうやって増やすというのか激しく疑問に思います。

 

自己紹介

 都内でホテルの清掃をやっている清掃会社で働いている30代の男性です。ひょんなことからこの業界に入って早8年。これまでに渡り歩いたホテルの現場は7ヶ所。ラブホテルの経験はありませんが、ビジネスホテルから高級リゾートホテルまで一通りは経験しています。入社当初の清掃研修から始めて、インスペクター(チェッカー)を経て、現場責任者も経験し、現在は人手が足りない現場に入りつつ複数の現場を管轄するエリアマネージャーという立場です。そんな私がホテル清掃の現場の話やホテル業界の裏話を思いつくままに綴るブログ、、、になる予定です。

 

 といっても、あんまりストレートに書くと身元がバレてしまいますし、ホテルとの守秘義務というものもありますので、そこら辺はうまく誤魔化して書くつもりですので、どうしても曖昧にせざるを得ないこともありますのでご了承下さい。

 

 で、このブログを始めた動機としては最近同業者の人と話す機会が減ってしまい、話したいネタがあるのに話し相手がいないので寂しいから、というのがまず一つ目。

 

 二つ目は、以前2chの客室清掃スレを見ていたことがあるのですが、あそこに書き込みをしているのはメイドをやっている人がほとんどで、清掃会社やホテル業界の現状とか清掃技術や機材などの専門的な情報はあまりなかったし、ネットで検索してもビルメンテナンス系の情報はあってもホテルの清掃に特化した情報はほとんどないので、それなら自分で書いてみるかと思ったわけです。

 

 ただ、この業界は清掃会社やホテルによって契約内容や条件、ルール、清掃手順等が全く違いますので、ここで書くことはあくまでも私が経験した現場の話と同業他社の人から聞いた話であって、どこのホテルにも当てはまるとは限らないということをご了承いただきたいと思います。